―――――――― 【ノベルゲーム感想】「僕らのノベルゲーム」 ――――――――


僕らのノベルゲーム感想(ネタバレ有り)

■ 基本情報 ■
制作者:九州壇氏 様
ジャンル:ノベルゲーム(フリーゲーム作品)
作品DL先:(ノベルゲームコレクション)


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■ はじめに ■

本作は、高校の文芸部に所属する主人公が仲間と共に約3か月後の文化祭に向けてノベルゲーム制作に挑む物語です。

さすが、九州さん……というより、“さすが”を超えたものを作り上げたな。という印象です。
「ノベルゲーム制作」という題材。ゲーム制作をしている人が興味を持つのは勿論ですが、そしてそうでない人でも、ノベルゲームプレイヤーなら興味を引く題材です。

また、今回はイラストを外注しているようで、ビジュアル面でもオリジナリティーがあります。
そのイラストも青春部活ものの雰囲気に合う、爽やかな感じでグッドです。谷口さん可愛い。さらに、フリー素材の背景を考慮しつつのオリジナルの一枚絵も丁寧な仕事でしたね。

それと、これは毎度なのですが、やはり丁寧で読みやすい文章や、自然な終盤への伏線仕込み。
そして何気ない日常シーンの中でも自然に描かれるキャラ掘りや可笑しみと下ネタ。
さす……じゃなくて、「さすが」を超えた何かを感じ取れます。

さて、それでは良い所・気になった所など含めて色々と“正直に”書いていきます。


【作品分析】

■ 良かった所 ■
★物語の序盤でゴール地点(主人公の目標)が示されている
本作では約3か月後(100日後)の文化祭に向けてノベルゲームを作るという明確な物語の方向性とゴールが序盤で読者に提示されます。

これが、明示されることでプレイヤーは、「期日までに完成させられるのか?」という問いに興味を抱き、また話のベクトルも意識できるので、キャラの行動一つ一つの意味を感じながら読み進めることができます。

そのため、基本的には、その制作に焦点を当てたシーンが展開されていくので、展開に無関係な日常シーンが描写されることは余りありません。ゆえに、プレイヤーは必要な情報を物語から得つつ、ゲーム制作の流れや、主人公たちの問題解決などを、要点を押さえつつ楽しむことができます。


★週一部活の設定
「100日後の文化祭に向けて……」となると、「100日分も読むのか……?!」となりそうですが、ここは物語の設定で「基本的に文芸部が集まるのは週1回」となっているため、7日置きの物語を楽しむことができます。1週間であれば、作中での制作も割と進むので、プレイヤーはその変化をストレスなく、手軽に知ることができますね。それに、これであれば、プレイヤーを置いてけぼりにして作中の部活メンバーがいろいろやることもありません。
基本的にゲーム制作は地味な作業の繰り返しなので、この設定は上手いなと、感じましたね。

★インサートされる、作成しているノベルゲームの中身
さて、本作は劇中でノベルゲームを制作しています。
物語の進行に応じて、その制作中のゲームの一場面がシーンの幕間に展開されます。
物語に緩急や引き締めを与える効果だけでなく、主人公たちがどのような物語を作ろうとしているのかをプレイヤーが知ることができる、面白い仕掛けだと感じました。

本作のメインストーリーはあくまでも“文芸部がノベルゲームを作る”です。そのノベルゲームの物語(劇中劇)も気になるところですが、それをラストでまとめてプレイヤーに読ませるような展開だと、メインストーリーが足踏み待ちしてしまいますよね。そこで、少しずつ、メインのお邪魔にならない程度に箸休め的位置づけで、挿入したのはグッドです。


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★緩急の付いたシナリオ。そして、溜めに溜めて、熱いシーンが来る
作中で主人公はゲーム制作のためにいくつもの課題に取り組んでいきます。
例えば、序盤の各部員との4項目における課題解決などが分かりやすく、それぞれのキャラクター及び主人公との関係性を掘り下げ&提示しつつも、「トラブル発生⇒解決」の流れを汲みながら進みます。「いったいどうするのかな?」と興味を引きつつ、時には意外な方法に着地したりするので、先が気になる進め方をしてくれています。
結構、キャラの掘り下げ方が面白く、プレイヤー=主人公だからこそ知りえるエピソードが魅力的でした。谷口さんが自身の夢を語ったり、少しミステリアスな遥先輩の意外な交友関係が垣間見えたりなどですね。
サイドキャラの掘り下げができれば、その後、そのキャラに対してプレイヤーが感じる印象も変わってくるので、これまた緩急をつける結果を生むことができます。

タツ君は普段から主人公と絡むキャラなので、「余り表裏なさそうだな〜」と思いつつも、もう少し掘り下げても面白かったのでは…と感じました。…というのも、結果的にはタツ君のイベントは鬼瓦君が持って行ってしまった感がありましたので。

そして、私が個人的に「鳥肌が立ったシーン」があります。
それは、ノベルゲーム制作が中止になり、主人公が全てに嫌になってしまう展開。つまり、物語の終着点「文化祭にノベルゲーム出展」が叶わなくなる下りです。このために、プレイヤーも主人公と共に歩んできたため、その絶望感は大きいですね。

しかし、そんな中起きる「鬼瓦君の奇跡」ですよ。正直、これにはやられました。……というか、主人公同様、すっかり彼の存在を忘れていましたね(立ち絵も無い&序盤に登場ゆえ)。名前のインパクトは凄いので、すぐに思い出しましたが。本当によい伏線仕込み具合です。
そして、絶望の淵で主人公が出会う、ゲームヒロイン:エレナのイラストがここで【初お披露目】されるのです。主人公と共に感動しましたし、さらに、そこで再び己の本当の気持ちに気が付く主人公にもう、グッときました!
わたしは、このシーンこそが、本作における最高のシーンだと感じています。
私はこれを、「鬼瓦君の奇跡」と呼びたい。

★程よい青春具合
これは、人を選ぶ?かもですが、主人公が高校生で多感な時期でもあり、時にはタツ君と、時には一人で悪ノリします。基本的に、九州さんの文章は丁寧で綺麗ですが、ふとした瞬間に、程よくバカになるのが好きです。やっぱね、それこそ男子はバカなくらいが面白いんです。
正直「ギリギリな下ネタ…攻めの姿勢だな…」と思う部分もありましたが(笑)。良いです。
※谷口さんとの街歩きや、ハルカ先輩の台詞…とかの、女性キャラを噛ますシーンは攻めの姿勢だと思います。

あと、タツ君の主人公への絡みも好きですね。個人的には、男同士の馬鹿なやり取りが大好きです。(合宿での早朝ランニングのやるやらないの下りとか面白くて最高でした!)

まじめなシーンでも、主人公とタツ君の部室でのやり取りで(うろ覚えですが…)
「まじめになりすぎたか?」⇒「その調子で頼む」
のやり取りは「ふふっ」となりましたね。

そして、部活もののお約束?と言っていいのか分かりませんが、物語中盤で行われるお泊り合宿。「合宿だけど……制作してなくない?」な疑問は持ちましたが、ここが実は不穏な空気の前兆だったと思えば、緩急付け含め、青春の1ページ的な感じで良かったと思います。


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★フリゲ制作者であれば、より様々な登場人物に感情移入
わたし自身もフリーノベルゲーム作者ということもあり、色々なキャラの視点・感情で物語を楽しむことが出来ました。主人公が課題にぶつかった時「私だったらどうするかな……」なんてことを考えつつプレイしましたね。
※「背景は西洋写真を加工で…音はフリー素材で…。制作ルールは…」なんて、ことを思いつつ。
印象的だったのは、谷口さんが話していた「キャラクターの深み出し」ですね。作中では、お出かけ先で、自分のキャラがどんな言動、行動、思考をもつかを想像する、といった方法を紹介していました。正直、このやり方は面白いと思ったので、私も機会があればやってみようかな、と思いましたね。
※私自身はキャラを作るときは、「脳内面談」って形で色々な質問をしつつ、内面や他キャラとの人間関係を探るっていうのが多いのです。「**さんの事はどう思う? 理由は?」的な感じで質問し、言動や身振り手振り等を観察します(やっていることは、自己妄想ですが…)。

★他にも…
・Tips機能による、専門用語解説
・テキストウインドウに表示される名前が、主人公視点の呼び方で統一されている。
などの、細かい仕様もグッドでした。


■ 気になった所 ■
★終盤屋上にて木下君が難癖をつけてくるシーン。
木下君の言い分が支離滅裂に感じます。
部長の了承を得た上で文芸部に協力拒否をしたと思うのですが、その結果で木下君とその友達が罰を受けている……流れですが、ここがちょい呑み込めませんでした。
そういうイチャモン系キャラであると捉えるにしても、読んでて「どういうこと?」となってしまいました。
※「とりあえず、腹いせに文化祭を狙って主人公を痛めつけに来た」ということであれば、問題なく納得です。(主人公も相手の事情を呑み込めていないようでしたし)

★主人公が立ち向かう一枚絵のシーン
これは、シナリオというより絵の印象なのですが…。ここに至るまでに主人公はボコボコにされている下りがあります。画面真っ赤演出や口の中を切る描写など。
それを踏まえると、キャラ絵がキレイ過ぎて、不自然さを感じてしまいました。

これまた、個人的な感覚なのですが、どうにもイラストの主人公は「俺」って感じではなく、「僕」って感じを受けてしまいました。
基本的に主人公のイラストは部室一枚絵とこのシーンだけなので、プレイ中は気にならないのですが、イラストの子を見ると、言動や性格とのズレを感じてしまいます。

★ラストの盛り上がりがもう少し欲しい。
先述しましたが、私が本作でもっとも感動したのは「主人公がエレナのイラスト見て、再び立ち上がるシーン(※鬼瓦君の奇跡)」です。
もう少し分析すると…、ここは「主人公の内側」に発生した問題を解決したシーンでもあります。 ノベルゲーム制作で生まれた最悪の展開から、再び這い上がる姿&そこで初お披露目の一枚絵でプレイヤーの心をガッツリ持っていきます。さらに言えば、作中で主人公が涙を流し、新たに決意し直す、胸アツ展開です。

しかし、そこで本作がエンディング……という分けにはいきませんよね。だって、最終目標は「文化祭にノベルゲーム出展(OR 新目標:最低でもノベルゲームの完成)」なのですから。ゆえに、最低でもそこまでは物語を紡ぎ、プレイヤーに結末を届けなければなりません。

しかし、主人公が抱えていた最大の「内側(心)」問題は、解決します。気持ちの成長です。
少なくとも、文化祭に間に合わなくとも、物語は完成させる…!という目標ができます。
そして、その決意は文芸部の仲間にもしっかりと伝わり【皆で再び力を合わせて!】なカッコいい展開を作り出します。タツ君も、いい具合に頑張ってくれますしね。
そう、【仲間】です。大切なのは――。


後は、最終イベントの文化祭が控えています。
しかし、内面問題が解決した今、なんの問題もなく文化祭を迎えたのでは、物語の最後の押しとしては弱いです。ただただ、最後に向けて一生懸命作業するだけになりますしね。

そこで、なんとか、タツ君との関係も変化しつつ、ゲームを完成させた文化祭当日で、最後の壁が主人公に立ちはだかるわけです。

内側の問題の次に提示されたのが、外側の問題。それが、木下君ですね。
木下君は主人公にとって「外側」の問題です。
過去の問題(創作恐怖になった原因)であり、暴力です。
また、皆の気持ちの結晶である作品を壊そうとする存在であり、それを乗り越える過程で主人公はまた成長します。

ただ、正直ここが「内側問題」解決の感動を先に経験してしまっているために、弱く感じてしまいました。主人公の視点は別として、プレイヤー視点だと、どうにも木下君に小物感を感じてしまいました。

読んでいるときは「ああ、タツ君登場は、ここしかないっしょ…! ピンチに登場は熱い展開…!」な気持ちだったのですが、結果的にはノベルゲームをプレイした一般生徒によって幕引き…で、もったいないなと感じてしまいました。
主人公の心の中でも、【仲間】との思いを守りたい……という気持ちより、エレナという存在【自身の夢】を守りたいに感じました。

勿論、主人公たちが一生懸命完成させた作品が、ちゃんとプレイされたことで助けが訪れる結果ではあったのですが、ここは、もっと内面問題解決で得た【仲間】というものをもっと生かせるようなものであれば、「鬼瓦君の奇跡」を超える胸アツ感動展開になったかもしれません。
最後の最後は、熱くカッコよく問題に打ち勝つ物語…が個人的には好きです。



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■今後の希望としては……
★素敵なOP、EDをせっかく用意したわけですし、クリア後にそれをオマケモードで閲覧できれば、さらに良かったかもしれません。

★鬼瓦君は、いい具合に終盤に存在を思い出す塩梅のキャラなので、今後更新することがあっても、立ち絵は無い方が、“個人的には”効果的かもしれません。


■最後にまとめ
「ノベルゲーム制作」という、正直に言えば、インドア地味活動に青春部活ものを絡め、ここまで高いレベルに調理し、仕上げたことはお見事です。

さらに、その過程でノベルゲーム制作の「楽しさ」「苦しさ」ともにちゃんと描きつつも、それが物語を阻害するようなものでなく、主人公の思考や成長に作用させていくことで、制作の「表裏」をプレイヤーに伝えています。そして、その結果がこの小さな文芸部5人の大きな奇跡の物語に緩急あるドラマを与えています。

この物語を読んでノベルゲーム制作に自然と興味を持つ人もきっと出てくると思います。
しかし、現実は本作のようにドラマチックでもなければ、青春すらない地味なもので、物語にすらならない苦難と作業の連続のようなものが大半だと思います。

ですが、自分だけの、あるいは自分達だけの物語を完成させたときの、喜び・誇らしさ・興奮は、きっとこの素晴らしい物語に勝るとも劣らないものになることは、違いありません。

「僕らのノベルゲーム」から、貴方もノベルゲーム制作を始めてみませんか。






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